カキフライの思ひ出
冬の料理の一つ、カキフライ。シーズンになると、喫茶店をはじめ色々な店にサンプルが並ぶ。そのサンプルを見るたびにわたしはある人を思い出す。
天王寺MIOプラザ館の2階にカフェレストランがある。その店も、例によって、カキフライのサンプルをショーケースに展示していた。
わたしはそのカキフライを横目で見つつ、休憩でもしようと入店。注文したコーヒーを待っていると、一人の女性・・・おばあちゃんが隣のテーブルの席に着いた。
小柄な老婦で、歳は60代半ばぐらいだろうか。服装は地味で、カフェレストランに一人で入ってくるようには見えない雰囲気だった。
店員が、オシボリとお水とメニューを持ってきた。それらをテーブルの上に置いて、注文を聞こうとした瞬間、おばあちゃんはこう言った。メニューも開けずに。
「カキフライ!!」
店員は、その勢いに押されて、「は、はい」というと奥へ引っ込んでいった。どうもおばぁちゃんはカキフライ食べたさに、サンプルだけ見て入店してきたようである。
しばらくして、おばあちゃんの元へ、注文したカキフライが運ばれてきた。メニューを見ずに注文したところを見ると、よほど食べたかったのだろう、おばあちゃんは、一心不乱にカキフライに喰らいついていた。
そのうちに手元を誤ったのか、カキフライが1つ、床に落ちてしまった。その落ちたカキフライをおばぁちゃんは素早く拾うと、3秒ルールよろしくそのまま口に放り込んだのだ。
まさかの展開に、わたしは目が点になった。カキフライが落ちたことなど無かったかのように、おばあちゃんはあっという間に完食。食べ終えた後の休憩もなく、すぐに店を出て行った。
たった1回、店で隣同士になっただけのおばぁちゃんなのに、ずっと記憶に残ってる。それほどのインパクトが、このおばぁちゃんにはあったのだ。
そう、カキフライを見るたびに思い出すくらいに・・・・。
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